ASEAN地域内の教育が地域コミュニティを作る

現在ASEANは、昨年の東南アジア諸国連合(ASEAN)創設50周年の祝賀ムードが静まるにつれ、社会文化、経済・政治的コミュニティーの融和という壮大な構想の実現に向けた課題に直面しています。この統一コミュニティ構築の過程において、極めて重要な役割を担うとされているのが教育部門です。

ASEANでは、地域内の人材の経済成長への貢献度を高めるだけでなく、人材の能力向上と、ASEANに所属する者としての自己認識形成の促進を図っています。2009年にチャアム・ホアヒンで開催された第14回ASEANサミットで立案された様々な活動計画の中で、高等教育地域化に関する計画は議題の中心となっていました。

そこからASEANは、地域内の教育機関内での協力体制を発展させるための取り組みを実施しています。また、共同研究計画を奨励し、共通単位認定制度や、その他利用可能な制度を通じて、交換留学生(スタッフも含める)の育成にも取り組んでいます。

さらに、「高等教育のための共通スペース」を設けることにも尽力しています。ASEAN地域内の高等教育のために共通スペースを持つこととは、ASEAN諸国にある約6,500の教育機関の調和を図り、およそ1,200万人の学生に利用してもらうことです。昨年11月に、SEAジャンクションやハインリヒ・ベル財団東南アジアにより開かれた討論会でも議題となったように、実施にあたっての課題は多く、複雑です。

複雑な環境

海外留学を視野に入れているASEAN地域の学生はまず、東南アジア外の教育機関のための既存の選択肢パターンに従います。
これまで一般的に、ASEAN地域の学生はアメリカ、ヨーロッパ、オーストラリア、そしてやや割合は下がりますが、日本の大学を選んできました。今ではインドや中国の大学も選択肢の一つとなっています。東南アジア外の大学は、そのような優先傾向を維持すること望んでおり、現在それらの大学の学生採用マーケティング手法は広く拡大しています。

2017年11月にバンコクで開かれた、タイ政府主催の国際教育エキスポ2017のデータによると、(主にタイ人の)訪問者にとって、イギリス・アメリカ・オーストラリアが留学先として好ましい地域であるとされています。留学先上位20カ国の中でASEAN加盟国だったのは、9位のシンガポールと、20位のマレーシアのわずか2カ国でした。

留学斡旋機関の説明では、イギリスとアメリカが圧倒的に多く、意欲的に教育事業の中心を目指す中国がそれらに続いています。
東南アジアの教育機関内の競争は、アメリカやオーストラリアなどの東南アジア外から参入してくる国際大学の増加に伴い、さらに激化しています。

そのような大学は、魅力ある格大市場の獲得を目指しており、「グローカル」なるもの(地球規模であると同時に地域的であること)を東南アジアに創り上げ、例えばシンガポールのイェール-NUS大学のような、「オフショア」キャンパスを開設しています。
また、二重学位制度やパスウェイプログラムなどのアカデミックプログラムの導入も行い、学生が母国で1・2年の間学び、それからオーストラリアやイギリスなどで学位を取得することができるようにしました。

現在、主にマレーシアやインドネシアでこのような教育の選択の幅が広がっており、この2カ国がASEANの教育の中心として地位をさらに高めていますが、他の地域でもどんどん発展が進んでいます。

教育の「グローカリゼーション」は、ヴァーチャル教育にまで及んでいます。
デジタル機器・環境を手に入れ、利用できるようになったことで地方での教育の定義が新しくなったのです。デジタルプラットフォームのおかげで、若者たちは、自分の暮らす地域・国から出ることなく、これまでにない形で世界の教育や大学にアクセスすることができるのです。

この時代の学生たちは、自分達が従来の教室という枠を越えて学んでいることを認識し、またそれに感謝しています。マッシブ・オープン・オンライン・コース(MOOC)や、カーンアカデミー、エデックス、コーセラのようなオンライン学習サービスを学生が利用することで、ヴァーチャル教育の有用性は十分に示されています。

さらに、今の世代の学生たちの企業家的・想像的考え方が、ビジネスやキャリアでの将来的チャンスを探求するための助けとなるだけでなく、教育(そして労働)エコシステムから、彼らが自主性を獲得することが期待できます。

従来の学習課程・学習へのアプローチはもはや十分ではないのかもしれません。ASEAN地域内の教育機関は、新規の学生を獲得、維持していくつもりなら、変化し続ける彼らのニーズに応えるため、早急な変革が必要です。
学生の新しい教育科目への関心も変化しています。例えば、「マーケティング」から「デジタルマーケティング」、「社会開発」から「社会企業」、「コンピューターサイエンス」から「アプリ開発」などへの変化があげられます。

タイの場合

この急速な変化の流れの中で、東南アジア諸国は新世代の学生たちに、自国が教育の選択肢として価値があることをアピールしなければなりません。
新世代の学生は、ますます競争が激しくなる中で、自分達の希望をかなえることを重要視し、就職先を見つけることで頭がいっぱいです。選択肢の中で学生たちは、学位の取得だけでなく、海外留学の経験も重要視しているようです。

例えば、タイ政府は地域資産として、特に教育の機会に乏しい近隣諸国にタイを推してきました。
この10年ほどで、国際教育を受けたいと願う留学生・タイ人学生のどちらにも対応可能な、英語での国際学士・修士・博士課程修了者が増加しています。

高等教育委員会が最後に行った2013年の統計では、タイは近隣諸国からますます多くの学生を集めることに成功しています。そしてこれは皮肉にも、タイの教育の質の低下、そして英語での指導能力が限られているという報告があるにも関わらずです。

現在、タイへの留学生の出身地の上位5カ国は、中国(7,405人)、ミャンマー(2,252人)、カンボジア(1,317人)、ベトナム(910人)、ラオス(909人)です。これらの留学生たちは、かつての奨学金での留学生ではなく、自費で学びに来ている学生が増えています。
非公式ながら、ASEAN地域の学生や家族へのインタビューを行って実施した調査では、このような学生たちの留学の動機は様々です。

ASEAN諸国からの学生は、在学中も簡単に帰国できるので、母国から近いタイを好みます。
また、タイの留学生プログラムの費用は、マレーシアやシンガポール、ASEANの外の教育機関と比較すると比較的安価です。

そして学生たちは、英語や中国語の他にASEAN内の別の言語を学ぶことを欲しているし、タイでは自己表現の制限が強くないため、そのことも評価の対象にしています。
もう一つ、最も重要なことは、ASEAN経済の統合が進む中での将来的なキャリアや、雇用のチャンスに役立つような東南アジアの友人とのネットワークを構築することです。

真の地域的体験を作る

個人の希望や、ASEANの関心への対応を向上させるには、教育制度の中の異なるレベルでの繋がりを強め、ASEAN地域で有能な人材を育成する上で、同盟各国の高校や、高等教育プログラムが互いに補い合うことが重要です。

地域内の教育の差を埋めることは、優秀な人材が流出することで起こる高等教育の地域化を避けるためにも重要なことです。そのようなリスクについての例として挙げられるのは、シンガポールです。シンガポールはベトナム、ミャンマー、その他の近隣諸国からの優秀な留学生を奨学金で援助することで呼び寄せ、その後シンガポール国内で雇い入れるのです。

前述の昨年11月に開かれた討論会では、必要とされている教育改革の一つに留学制度を用いることで、留学費をまかなえない学生の大半を他国の奨学金で送り出すような国々の人材が不足し、教育制度が弱体化してしまうのではないかと心配する参加者もいました。

また、学生がASEAN諸国間での教育を、東南アジアの一つの国にとらわれることなく受けられるようなシステムを構築するにあたり、官僚的障壁を取り払う必要性についても強い意見がありました。
複数の国の単位認定が許されるプログラムのおかげで学生たちはその地域をよく理解し、地域の変遷過程や、世界と地域の現実の共通点などを学ぶことができます。ここに述べたことは、地域の高等教育を「ASEAN化」し、2018年以降のASEANの信念を刺激するために対処すべき重要な問題なのです。

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